偽 装 恋 愛 




嘘は嫌いだった。

それは言葉だけにとどまらず、上っ面だけの後輩も、

一皮めくればサビだらけの教師も、見掛け倒しで中身はカラッポの女も、

『嘘』というメッキで身を固めているものは全て俺の許容範囲を超えていた。

嘘は人を不幸にする。

そして、物事をひどく後味の悪いものへと変化をもたらす。

それは今まで幸福という鮮やかに彩られた事実さえも、しおれた泥まみれの雑草へと変えてしまう。

だから、俺は嘘が嫌いだった――筈だった。

なのに、どうして俺は頷いてしまったのだろうか。

無邪気で、それでいて悪質な、一度関わったら抜け出せさぅもない、麻薬のような彼女の言葉に。


彼女に関わりさえしなかったら、あんなことになりはしなかったのに。







第 1 話   目 覚 め の 悪 い 朝









 どこからか子供の声が聞こえる。それに重なる鳥の鳴き声、飛行機の轟音。そしてそれらに後追いをかけるようにやかましい程に鳴り響く旧型の目覚ましの音。まどろみの中をぼんやりと漂っていた俺は枕に顔を押し付けたままスィッチを切った。
 頭が酷く痛い。後頭部を突然鈍器で殴られた、そんな衝動が残っているような痛み。昨日の痛飲が翌日に残ることぐらい普通に考えれば予想できた筈なのだが、無理も無い。そんな余裕があるくらいなら、あんな無茶な飲み方はしなかった。
 今日の講義は確か十時からだ。もうそろそろ支度をしなければならないのだが、とてもそんな気分ではない。朝の講義は選択科目のなので単位はそんなに高くない。出席日数も充分足りているはずなので、午後の必修科目であるに間に合えば充分だろう。この担当の教授はいつも言葉の端々にねっとりとしたいやみったらしいニュアンスをのせて喋るので、あまり出たくないというのが本音である。あのカメレオンのような顔の男がする話を、二日酔いのだるさが抜けきれてない頭で聞くのは気が重たいが仕方ない。まあこのように計算する時点ですっかり学生気分が定着してしまったという証拠なのだが。
 午後の授業から出席するとなれば、あと3時間は眠れることができる。俺は憂鬱な気分を打ち消すために眠りに入ろうと寝返りを打った。しかし、その途端俺の表情は凍りつく。
 誰だこの女。
 念を押すために確認するが、この部屋はラブホテルではない。この整理整頓が殆どされていない、無造作に詰まれた本と服が散乱しているワンルームはまぎれもなく俺の部屋だ。なのに。見知らぬ女が俺の隣で規則的な寝息をたてている。おそるおそる布団を捲くってみると案の定、俺も彼女も何一つ身に纏っていなかった。
「やっちまった……」
 今までのまどろみなど、一遍に消えてしまった。俺は身を起こし、隣で寝ている女の顔を再度覗き込む。伏せられた長い睫毛と、下に落とされたミニ丈の、シフォン地の濃いピンクのワンピース。とぎれとぎれで不確かな記憶が、ぼんやりとした曖昧な形を持って頭の中を漂っているが、思い出すことができない。というよりも、そんな冷静さを取り戻すことなんてすぐにできるものじゃない。
 とにかく落ち着こう。そう思った矢先、女が伏せていたまぶたをゆっくりとあけ、そしてにこやかに微笑んだ。
「おはよう」
「あ、ああ、おはよう」
 心臓を鷲掴みにされたような、不安定な感情が俺を襲った。条件反射のように顔を伏せる。
「君は大学?」
「あ、ああ」
 ぎこちない、まるでいたずらがバレたときの小学生のような声に、女は眉をひそめる。怪訝そうな表情は男を身じろぎさせる、それだった。
「どうしたのよ」
「あのさ」
 俺は動揺を悟られないように一気に捲くし立てようとした。しかし、自慢ではないがあまり場数を踏んでいない俺は、こういう時どのような言葉を舌に乗せればいいかわからない。このまま何もなかったふりをして会話を繋げられるほど俺は器量が良くないし、かといって「あなた誰ですか」と単刀直入に聞くのは女のプライドをかなり傷つけるような気がするし、何より失礼だろう。外見だけで判断すれば、女はかなりプライドの高そうな目鼻立ちをしている。
 すると、女は軽く苦笑した。
「やっぱりね」
 え、と俺は顔をあげる。そこには勝ち誇ったような女の顔があった。 「あなた、何も覚えてないんでしょう」
 女は笑った。そうすると、知的な印象を与えていた二重の切れ長の瞳が柔らかく穏やかになり、猫のような愛らしさが加わる。頬にはえくぼが微かに浮き出て、それがますます女の愛らしさを増す要因となる。ふんわりと乗せられたピンクのチークが、それをより一層垢抜けた表情に見せていた。
「朝起きて隣を見たら得体の知れない女が寝ている。それも裸でね。一体どういうわけなんだ  …って戸惑ってるってところでしょう」
「それは」
「教えてあげようか」
「え?」
「私達がどういういきさつでこうなって、どうして私が今ここにいるのか」
 一体何がしたいんだ、この女は。
 俺はじろり、と軽く女を睨みつけた。しかし女は怯むようはもなく、むしろますます面白がっているようだ。鼻歌を口ずさみながら爪を眺めている彼女の姿は、状況を楽しんでいるとしか思えない。 けれど女は美しかった。背中まで伸びたミルクティブラウンのウェーブがかかった髪に、白く透き通った陶器のような白い肌は、中世ヨーロッパの裸婦像を思い浮かべるほどのものである。しかしそれをクセや嫌味のない柔らかい印象を人に与えるのは、ぽってりとしたふっくらめの唇のせいだろう。
「やっぱり教えてあげない。自力で思い出してみたら」
 明らかに、俺はこの美しい女にからかわれている。
「何だよ、それ」
 不服そうに俺がうなると女はまた面白そうにきゃっきゃっと腹を抱えて笑った。一体何がおかしいのだろうか。俺は苛立ち、女を再度睨みつける。すると女は首を傾げ、どうしたのよ、とでも言いたげな瞳で俺を見つめた。
 やばい。俺は直感でそう感じ、下着だけを身に着け、ベッドの下に散乱していた衣服を抱えてシャワーブースに向かう。背後では、私が先に入りたかったのにとごねる女の声がしたが、聞かなかったことにした。
 いつもより熱いシャワーを浴びながら、ぼんやりと漂っている記憶を呼び戻そうとする。昨晩俺は一体何をしていたのだろう。学校に行って、授業を受けて、友人と食堂で味の薄いカレーライスを食って、ブースでDVDを見て……。
 それから『あのこと』を知った。それは俺が認めたくなくて、ずっと目を逸らし続けていた事実だった。
 忘れかけていた胸の痛みが再び蘇ってくる。吐き気もした。目頭の奥がひどく熱い。
 あれから俺は、友人を誘い、新宿に出た。色々な呑み屋をはしごして、前も後ろも分からぬ状態になってもまだ別の居酒屋に入ろうとする俺を、友人は見かねて何度も止めたが俺は聞く耳を持たなかった。友人達は呆れ、もう勝手にしろと吐き捨てて、酔っ払いの俺を一人道端に残し、それぞれの家へ帰っていったのだ。
 薄情者。俺はそう毒づき、歌舞伎町の端にある、こじんまりとしているがセンスの良い外観をしたバーに足を踏み入れた。そして、確か、そこにあの女はいた。
 それからはもうよく覚えていない。ただ確かなことは、俺が酒に溺れて女を抱いたことだ。
 シャワーブースから出ると、女は既に帰ったのか、ベッドの上に紙切れが一枚無造作に置かれてあった。それには、丸っこい字で女の名前と電話番号が書かれていた。女の名前は富永沙紀。想像ていたよりも、割と平凡な名前だった。
 女が帰ったという事実がようやく現実味を帯び始めた途端、膨大な脱力感が襲った。本当に、何だったんだあの女は。ああいう身勝手で我侭そうな女には関わらないほうが身のためだというのに、どうして俺はあんな女を抱いてしまったのだろう。今後、酒は控えたほうがいいのかもしれない。
 俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、喉を仰け反らして一気に飲み干した。そして、ひどく喉が渇いていた自分に気付く。
 時刻は十時を回っていた。家を十二時に出れば大学には十分間に合う。それにはあと2時間も余裕があるが、俺はすっかり目が覚めてしまっていて、再び眠りにつく気にはなれなかった。
 俺は舌打ちし、枕元のラックからマイルドセブンを取り出し、一本抜き取る。ゆっくりと吸いながら、富永沙紀が置いていった紙切れを振りかざす。律儀なのか、無邪気なのか、それともしたたかなのか。どれにしろ、迷惑なことに変わりない。
 顔はきれいなんだけどな。
 吸殻を灰皿へ押しつけ、溜息を一つつく。ぼんやりと視線を紙切れへ移すと、名前と電話番号の他に目に付くものがあることに気付く。それは裏側の左端に小さく書かれてあった。
“これからもよろしくね”
 軽く、眩暈がした。




 早起きは三文の得だなんて、嘘だと思う。ついていない日は、朝からついていないものなのだ。今日はそれがよく身にしみる。まさか今日が課題の提出日だったとは。
 俺は、文学部に所属していて、中でも社会学を専攻していた。これは、社会的な存在としての人間を研究し、環境の変化や人間関係の摩擦によって、社会に存在する共同の秩序を守るための人間関係のルールや仕組みを観察し、それを究明するといったものである。この学科の中でも、選択科目である現代社会学を担当している、あのいやみったらしい教授の講義は結構レポートが多い割に講義の頻度が少なく、全体的に放任主義の傾向があるため、生徒にはあまり人気がなかった。一人暮しの俺には、頻度が少ないのはなにかと都合がよいが、その変わり講義が少ない分、当たり前といえば当たり前だが課題の出来が重視され、成績を左右する。期限内に提出しないなんてものは問題外だ。
 唯一の救いか、俺には自分の家で勉強するといった習慣があまりないので、課題を完成させるのに必要な資料は殆ど大学のロッカーにいれてあった。図書室にでも閉じこもって集中的にやれば、何とか夜までには終わるだろう。
 しかし、授業中だけで充分な教授の小言は、いつもに比べねっとりとした皮肉っぽさがより増していたように思う。僕の課題を忘れるようじゃ社会ではやっていけませんねぇ、とぬらぬらとした前歯を光らせ、勝ち誇ったように教授は笑う。気持ち悪い、と俺は思った。
 昨晩から続く、訳のわからない事態に対応しきれていない俺の思考回路はショート寸前だった。もういい加減、うんざりくるものがある。それでも課題はどうしても仕上げなくてはならないという現実が少し悲しい。
 窓の外から覗いて見える空は、鮮やかなグラデーションを効かせ、ほんのりオレンジ色に染まっていた。漂うあかね雲が秋の始まりを仄めかしている。潮の香りや、緑の柔らかさも何もない寂寥だけが存在する都会の風が、図書室のカーテンをそっと揺らした。
 先程から、俺の右手はあまり動いていない。俺の意識はそれよりも遠い、現実とは少し疎開されたところにあった。
「これからもよろしくね」
 そう富永沙紀は言った。何もかも見透かしたような、海よりも深い、けれどどこか哀愁が漂う瞳で。それは今まで見たことのない、女の瞳だった。あの瞳に関わってはいけないと、本能が暗示している。俺はそれに抗う気はない。
「ここにいたのか」
 図書室の自動ドアが開いて、聞き慣れた友人の声がした。繊細で、それでいて力強い声。ペンを置き、振り返ると、いたのは高校時代から付き合いがある寛人だった。
「薄情者」
 寛人は気まずそうに目だけで笑い、俺の隣に腰掛ける。寛人は机の上に広げられた殆ど手付かずの課題を見、どうしたんだよ、と言った。
「お前が提出期限内に課題をやらないなんて、珍しいじゃないか」
 本当、俺もそう思うよ、と腹の中で毒づいた。それを悟ったのか、寛人は少し哀れそうな色を顔に浮かべる。俺が今、一番見たくなかったそれだ。
「昨日は悪かったな、先に帰って」
 俺は自嘲気味に笑う。
「仕方ないさ、俺が荒れてたんだから。こっちこそ、悪かったな付き合わせて。拓也にもそう伝えといてくれ」
 拓也とは、俺が昨日連れまわした友人だ。
「それは構わねぇんだけど」
 付き合いが長いせいか、今寛人が言わんとしていることが手に取るように伝わってくることは、少し物悲しいものがあった。辛い、というよりも悲しい。それは微かに見て取れる気恥ずかしさをカバーするには、充分に足りている。
 風がすっと、ふたりのあいだをすり抜ける。先ほどよりも、冷たさが増していた。
「いつから知ってたんだ」
 俺は先に口火を切った。そうすることは、胸の暗雲を少し晴らしてくれそうな気さえした。
「あいつらが、そういう関係になってたってことを」
寛人は顔をあげる。そして、気まずそうに口を開けた。
「…3ヶ月くらい前だな。勇作からそういう類の話を聞いたわけじゃないけど、惚れてるんだなってことはなんとなく気付いてた」
「そうか」
 そして、ふたりは押し黙る。時計の秒針を刻む音、どこからか聞こえるシャーペンの筆記音とキャンパスにいる生徒達の楽しげな声だけが空間にこだましていた。俺は、ゆっくりとぺンを持ちなおす。微かに寛人の視線を感じる。窓からふんわりと風が漂い、広げていた資料がぱらぱらとめくられ、やがてそれは閉じられた。
 風は、やはり冷たいままだった。




 昨夜、俺は失恋した。失恋、と言うと随分俗っぽい響きがあるが、俺の場合、本当にそれだった。恋を、失ったのだ。
 俺には付き合って二年になる恋人がいた。名は、駒谷幸。彼女とは高校の時、同じのクラスになったことがきっかけだ。始めは友達だった感覚がいつしかそれ以上になり、ゆったりと付き合い始めたのだった。ゆったり、という言葉はとてもふたりにぴったりといった感じだった。 気持ちはお互いなんとなく知っていたのだが、先に告げたのは幸だ。そして、去っていったのも幸だった。
 原因は簡単だ。他の男の横恋慕。その相手は皮肉なことに俺の親友の一人、森山勇作だった。
 課題を何とか仕上げ、教授に提出した頃には太陽はもう西に沈みかけていた。教授は課題をざっと確認すると、わざとらしく溜息をつき、帰宅の許可を俺にくだした。お決まりに皮肉を最後に付け加えるのも、彼はもちろん忘れることは無かったが。
「今後はこのようなことのないようにしてもらいたいものですねえ」
 その言葉を言い終わらないうちに、俺は足早に教授の足元を去った。



 秋の始まりを匂わす風を背中に感じながら、頭の中を整理する。幸の心変わり、勇作の横恋慕、そして寛人の言葉。訳がわからぬまま、混乱状態に陥っていた俺の思考回路は、寛人と話したことが救いとなったのか、少し落ち着きを取り戻しつつあった。けれどそれは、事態の理屈を頭の中で整理できる落ち着きを取り戻しただけのこと。状態を整理している傍ら、現実を直面から認めようとせず、逃避している自分もいた。
 一体俺の何がいけなかったのだろうか。そして何があいつに劣っていたというのだろう。
 空を見上げた。鬱な気分を蔑むかのように、晴れやかに澄みきっている空はどこまでも広々としていて、決して俺の手の届かないところにある。
 ただ好きだっただけなのに。




 時計の音が暗い室内に響く。灯りはうっすらと灯されたまま、重苦しい空気が潜むように漂っている。見慣れたはずの、俺の部屋。それは今俺の目の前に座っている幸にとっても同じことだった。けれども、今のふたりのあいだに漂う空気が、それを無に返そうとしていた。俺は耐えきれずに立ち上がる。
「コーヒーでも淹れようか」
「いらない」
「でも、喉渇いてるだろう」
「いらないってば」
 幸の声には、棘があった。付き合っていた頃には聞いたことも無い、言い争いをしていても、感じられることのなかったそれだ。俺は再び座りこんだ。
 テーブルに無造作に置いてあった煙草を引き寄せ、一本抜き取る。ちらり、と幸の視線を感じた。ゆらゆらとのぼる煙を眺めながら、俺は口を開いた。
「いつからだ」
「え…」
 幸はゆっくりと顔をあげる。
「いつから、勇作と付き合ってた」
「…付き合ってないわ」
「嘘つくなよ」
「嘘じゃない」
「夕べ、見たんだ。お前が勇作のマンションへ入った所。」
 漂う空気が淀みを増す。心なしか、俺の声も、そして幸の声も微かに震えている。
「結局、帰って来なかったよな」
 そして、幸の目は濡れていた。
「寛人からも聞いたよ」
「何を」
「勇作が、お前に惚れてるってこと」
「そんなこと」
「事実だろう?」
 自分の声が少しずつ苛立ちを含め始めていた。それをひた隠すことなど到底出来るはずも無く、怒りが先走り、感情がうまくコントロールできない。
「言い訳も無しか」
「……」
「何とか言ったらどうなんだよ!」
 怯えたように、幸の肩が跳ねた。膝の上で堅く握られた拳は先ほどから緩められることもなく、ずっとそのままだ。結果は、もうわかっている。今日、幸から話があるとメールがあった時からもう変えられないものだと、知っていたのに。けれど、それなのに責められずにはいられない。舌にのせられる言葉は全て中身がからっぽなのに虚栄心だけは立派で、そのくせナイフのような鋭い刃を持ち合わせている。どうしてこんな風になってしまったんだろう。俺は、一体何を間違ったのだろう。
「どうしてそんな風にしか言えないのよ」
 懸命に振り絞った、か細い声で、幸が言った。
「何で私の気持ち、聞こうともしないのよ。確かに森村君のマンションには行ったわ。それは悪いと思ってる…。けど、亮平が怒るようなことは何もしてない。私がどんな気持ちで彼の所へ行ったのかも知らないくせに、そんな風になじるのはやめてよ」
 亮平は驚いて幸を見る。啖呵を切ったような激しさを見せる幸を見るのは、別に初めてというわけではない。しかし、今回は同じようでどこか違う。激しさの中に、女の潔さというものが感じられたように思う。初めて見るそれは、見知らぬ女の顔だった。
「あなたは何もわかってない」
 幸の形の良い唇が静かに動くのを俺はぼんやりと眺めていた。悲しいとか寂しいとか辛いとか、そんな単調なものよりも別のものが俺の脳内を支配している。
『理解できない』
「さよなら」
 幸はそう言うとゆっくりと立ちあがり、そして静かに俺を見た。暖かさの消失した、凍てついた深海のように澄んでいて、とても綺麗だけれど、深みにはまると毒を味わうであろう、そんな色をした瞳。見たことも無い、全身で俺を拒絶している。
 バタン、とゆるやかにドアが閉められた。しんと静まり返る室内。色味を失った、セピア色の空間。誇り高く響き渡るピンヒールの音。帰宅を始める子供達のはしゃぎ声、ゴミ収拾車のエンジン音、幸の言った「さよなら」
 全てが俺のいる、このセピア色の空間にこだまする。跡を残す。俺は勢いよく天を仰いだ。





◇ あ と が き ◇


管理人・ゆきが高校生の頃からちょくちょく書き溜めている偽装恋愛。


やっと第一話更新です。。


みなさんお仕事サボッててごめんなさい!!



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